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ハッピーニューイヤー


元旦にあいつとすっげぇケンカした。

珍しく三が日休みが取れたから、元旦の朝拉致して自家用ジェットに乗せようとしたら、あばれて蹴られて殴られた。

牧野がいなくなった客間に、俺はひとり残って考える。
荷物はあるから、この邸のどこかにはいるんだろう。

なんであいつは俺といるのを嫌がるんだろうか。
いつも仕事が忙しくて、週末にどっちか1日会えればまだいいほうで。
せっかく3日も休みが取れたんだから、一緒にいたいって思うのが普通じゃねぇの?

NYから帰ってきても、あいつが就職しても、俺らの関係はたいして変わらない。
いつも会いたい気持ちは俺の方が強い。
っつーか、俺だけだ。

売りことばに買いことばで、もうどこから会話が始まったのかどんな流れだったのかも思い出せないが、ただひとつ、あいつが連呼していたワードがある。


ハコネ。


…ハコネ?はこね?


海外?じゃあハコネはどうすんのよ。
日本人ならお正月はハコネでしょ。
ハコネを逃したら絶対いい年なんて迎えられない。
だーかーら!あたしのお正月はハコネがないと始まらないの!


ハコネハコネハコネハコネ。

今日のあいつは、口を開けばハコネハコネ。
いったいなんだっつぅんだよ。


俺は今日1番暇そうなやつに電話をかけた。

「おい、ハコネってなんだ」
「…司。元旦にいきなりなんだ?しかもこんな早くに」
「どうせ暇だろ?」
「なんで自分が暇だからって、人も暇だと決めつけるんだよ」
「俺は暇じゃねー。おまえは元旦にデートはしないだろ」
「・・・」

ほらな、図星。
あきらの相手は元旦にはデートできねーからな。

「で?ハコネって何か教えろ」
「なんのこと言ってんのか全然わかんねーけど、箱根のことか?温泉地の?」
「温泉?場所の名前だったのか」
「なんだと思ってたんだよ」
「いや、見当もつかなかった。けどそういや聞いたことあるな」
「牧野か?牧野が行きたいって言ってるのか?」
「ああ。っつーかなに言ってんだか全然わかんなかったけど、いまわかった。そういうことだよな?」
「いや、前後がわかんないからなんとも言えないけどな。俺は箱根はジジくさいから好きじゃないんだけど、総二郎はたまに使ってるみたいだぜ?お忍びで行くのにちょうどいいらしいけど、都内から…」

あきらの話はまだ続いていたが、ハコネがなんだかわかった以上行ったことねぇ奴は必要ないから、俺は電話をぶち切った。

そしてすぐに次のコールだ。

何回も何回も鳴らして、やっとこつながった。

「…おい、いまはマジで無理だから」
「うるせー。俺には関係ねー」
「いや、マジで。いま挨拶周りと初釜の…」
「おまえ箱根行ったことあるんだろ?詳しく教えろ」
「だから人の話を聞けって。…は?箱根?」
「ああ、箱根について詳しく教えろ」
「なんだよ、また牧野か?」
「あきらもおまえも、なんですぐあいつだってわかったんだ?」
「箱根だろ?牧野が行きたがりそうじゃん」

あきらも総二郎も、牧野が箱根に行きたがりそうなのがわかってたっつうのか。

「まーそういうことなら俺より類のがいいぜ。類はよくひとりで温泉に行ってるらしいからな。俺もよく行くけど、牧野が行きそうなところには…」

忙しいと言っていたわりに総二郎の話は長くなりそうだったから、ここでまたぶち切って、ソッコー類に電話をかける。

何回もかけることになるだろうなと憂鬱な気持ちでいると、珍しくすぐにつながった。

「…なに」
「なんだよ、珍しくはえーじゃん」
「起きてたから。なに?」
「おう、箱根について詳しく教えろ」
「…牧野?」

なんだよ、みんなして牧野牧野って。
類に言われると1番ムカつく。
けどここは大人になって、むしろ自慢で切り返してやる。

「まぁな。あいつがどうしても俺と箱根に行きたいってうるせーからよ。このクソ寒い時期に俺は日本にいるなんてつまんねーんだけどよ。あいつがどうしても俺と箱根に…」
「いつ行くの?」
「あ?今日だよ、これから行くに決まってんだろーが」
「牧野が今日箱根に行きたいって言ったの?」
「だからそう言ってんだろ」
「本当にそう言ったの?」
「・・・」

なにが言いたいのかサッパリわかんねー。

「…なんだよ、今日箱根に行っちゃわりーのかよ」
「…ううん、べつに。牧野が行きたいって言うならいいんじゃない?」


なんだよなんだよなんなんだよ。

俺はイライラしながら、邸の中を歩き回って、やっと厨房で牧野を見つけた。

「…なに食ってんだよ」

牧野はちょっと気まずそうな顔をして口を動かすのをやめたけど、なにか食ってたのは歴然。
すげーほっぺたパンパンでリスみてぇ。

「お雑煮。やっぱ一流シェフはお雑煮も全然違うわ」

なんだかわかんねーけど、さっきよりは牧野の機嫌が良さそうで。
おぞうに?のおかげかなと思ったら。

「…さっきはごめん。せっかく休み取れたんだから、あんたもやりたいこととか行きたいとことかあるよね」
「・・・」

びっくりした。
牧野から謝ってくるなんて超絶レア。

「いや、俺も。おまえの希望も聞かないで悪かったよ。おまえの行きたいとこ行こうぜ」
「あたしの行きたいとこ?」
「おう、ほら、もう運転手待ってっから。行くぞ」

牧野の手をとって車に向かう。
こいつには内緒にして、箱根についたらびっくりさせてやろう。
そんでもって今日から3日間、俺に感謝する牧野とふたり、ラブラブ真っしぐらだぜ。


***

「…ちょっと。誰がいつ箱根に行きたいなんて言った?」
「は?…だっておまえ…」

元旦の箱根。
すげー渋滞で全く動かなくなったリムジンの中で、またしても険悪なムード。
ラブラブどころじゃねぇ。

「な、なんだよ、おまえが箱根に行きたいっつったんだろ」
「言ってないし。お正月になんでこんな混んでるとこにわざわざ来ないといけないのよ。お正月はあったかい部屋でこたつに入って箱根を見るのが日本人でしょ」

・・・。

・・・・箱根を見る??


「…おまえが言ってる箱根ってなんだよ」
「は?知らないの?」
「なにをだよ」
「箱根駅伝」


「…駅伝ってなんだよ」
「…もうあんたとは話したくないわ」

やべぇ、すっげぇ不機嫌な牧野。

最初に電話した…あきらのやつぜってぇーぶっ飛ばす!






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テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学

恋する専務 〜ホテルメープル 企画営業部1〜



俺は今日から仕事はしない。するもんか。

牧野の異動をどうやって抗議しようかと散々考えた結果、これしかない。

俺は専務をボイコットする。


冗談じゃねーよ。
あいつを営業に行かせる意味あんのかよ。それにメープルって、俺の目の届かねぇとこに飛ばすのが目的なんだろ。
ババァの考えそうなことだよな。

今日はデスクワーク中心の日で、さっきから秘書の岩田が何件も何件も決裁書を置いていく。
でも俺はぜってぇーサインなんかしねぇからな!


その旨伝えるべく牧野に電話を掛けるが、つながらねぇ。
営業って外にいんじゃねぇの?
基本ケータイ取るんじゃねぇの?

今日から正式にメープルに出向扱いで配属された牧野は、もうここ本社にはいない。
この部屋には来たことはなかったが、今まで会った受付や社食はもう見たくない。
あいつがいないと思うだけで胸が苦しい。

どんだけなんだよ…と思っていると、ドアのノックと共に、俺の返事も待たずババァが執務室に入ってきた。

「なんの用だよ。出張なら行かねーぞ。今日は忙しいんだよ」

牧野に会いにいくつもりだからな。
許可はもらってねーけど。

「忙しそうでなによりです。仕事を放棄されたら困りますからね」

うっ。
バレてやがる。

「おい、今日からあいつメープルなんだろ?営業っつってもなにやらせんだよ。営業補佐か?」
「営業補佐のためにわざわざメープルまで行かせませんよ」
「あいつはどう見たって営業向きじゃねーだろうが」
「そうかもしれませんね。でも決めたのは彼女ですよ」
「社長から直々に言われて断れるやつなんかいねーだろ!」

俺は心底ムカついて、デスクに積み上げられた決裁書類を掴んで床に投げつけた。

床に散らばった書類を見ながら小さくため息をついたババァは、俺のデスクに薄い冊子を置いた。

「なんだよ、これ」
「見ての通りです。メープル営業部のノルマ、牧野さんの目標ノルマです。達成するまで営業部にいてもらいます」
「は?あいつもノルマあんのかよ。しかもこれって…異動したばっかで他の奴と同じように達成できるわけねーだろーが!」
「他と一緒では困ります。彼女はこの道明寺財閥で、他の社員と一緒なのですか?」
「どういう意味だよ」
「物分かりの悪い専務ですこと。彼女はすぐにわかりましたよ。そのうえで、営業にいくことを了承したんです」
「牧野が?」
「ええ。ですから、余計なことをして彼女の足を引っ張らないように。話は以上です」

いつものイヤミな足音を立てて、ババァが部屋から出ていった。

『他の社員と一緒なのですか?』

一緒なわけねーだろ。
俺の大事なオンナだっつーの。

それにその、俺とけっ、結婚するために働いてるようなもんだしよ。

「・・・」

牧野が営業に行くことを決めたのは、それをわかっててって…

まさか。

俺と結婚するために…



俺はまた牧野の携帯に電話をかけようとして、その手をとめた。
しばらく考えたあと、いつもは面倒で滅多に送らない、メールを打ち始める。

『初日大丈夫かよ。早めに帰れたら、会いにいってもいいか?』

この俺が。
この俺様が。

ちまちまメールを打ち、牧野にお伺い。

するとすぐに返信がきた。

『了解。あたしはたぶん帰れそう』

こんなすぐ返事できんならなんで電話にはでねーんだよというちっせークレームは胸にしまって、床に散らばった決裁書を拾い上げた。
あいつが頑張ってんのに、俺だけ職務放棄するわけにはいかねーよな。

午前中全く仕事をしなかったせいで、決裁書は思ったよりだいぶたまっていた。

やべぇ、これじゃ俺が帰れるかわかんねぇじゃんか!!

俺は昼飯も食わずに、ひたすら書類と格闘し続けた。



✴︎✴︎✴︎

「お、終わった…」

書類と時計しか見ない時間が続き、やっと最後の書類にサインをした。
こんなに必死に仕事をしたのは、専務になって初めてかもしんねぇ。
席を立つとき、すげぇデカイ腹の音がなって驚いた。
牧野がいるのかと思ったぜ。


リムジンで急いで牧野のアパートに向かうと、予め近くで連絡していたので、ドアから牧野がちょっと顔を出して待っていた。

なんだよ、すっげーかわいい。

「おかえり。あたしもいま帰ってきたとこだよ」
「お、おう」

総務にいたときもジャケットを着ていることが多かったが、今日はちゃんとしたスーツを着ている。

が…

「おまえ、そのスーツ…」
「あ、バレた?そうだよ、就活のとき着てたやつ」

就活生だったとき、毎日毎日着ていた、就活中ですって書いてあるようなカッチリしたスーツ。

「ダサすぎだろ」
「うっさいな。夕飯食べた?」
「いや、食ってねぇ。っつか昼も食ってねぇ」
「えっ、なんでよ?ちょっと待ってね、いまなんか作るから」
「あーマジ腹減って死にそう…てか、おまえ何してんの?」

ベッドに腰掛けた牧野は、足の指になにか貼っている。
スカートからパンツが見えそうで見えなくて、誘ってるとしか思えねぇ。

「靴擦れに絆創膏貼ってんの。今日初日だったからホテル内散々歩いて全部見て回ったんだけど、ヒールとか慣れなくてさ。それにあんたんとこのホテル、広すぎだよ」

いてて、と言いながら何個もバンソーコーを貼っているその足はだいぶ真っ赤だった。

「はぁー疲れた!ちょっと待ってね。一息ついたらご飯すぐ作るから」

痛々しい足を見ていたら、1分もしないうちに牧野から寝息が聞こえてきた。

「おい、起きろブス」
「俺は腹が減ってんだよ」

少し揺するが、起きる気配がねぇ。

マジかよ、あんなに誘っといて。

っつーか、腹減って死にそうなんだけど…


俺は牧野を起こさないようにキッチンに移動し、それでも起こしそうなぐらい部屋が狭いから、かなりの小声で電話をかける。
何件かの通話を終えると、最初にかけた邸から、夕食が届いた。

冷たいものだけ部屋の小せぇテーブルに運ばせるが、乗らない分は床に置く。
暖かい鍋はキッチンに置かせ、ワインは冷蔵庫へ。

邸の人間が帰ると、次の客が来た。

「道明寺様、この度は私共の…」
「あーいい。いま寝てるから静かにしてくれ」
そう言って黙らせ、荷物を中に運び込ませる。

スーツ20着。
こんだけありゃとりあえず足りんだろ。

収納がないって怒られることも計算済みで、折りたたみ式のクローゼットも一緒に運ばれる。

配送の担当者と店の責任者は、みんな牧野を起こさないようにすげぇ気を遣ってる。

最後に来たのは、俺がいつも使ってるブランドの靴職人だ。
寝てる牧野の足のサイズを丁寧に調べ、山ほど持ってきたサンプルもそっと履かせてみる。
もちろん女の靴職人を呼んだから安心だ。

「靴は10足、とりあえず明日の朝までに1足は用意してくれ。靴擦れができねぇように、とくに生地にこだわったものにしろ」

これでやっと依頼していたすべてが終了。
あとは牧野が起きるのを待つのみ。

たぶんこいつはすげー文句言うんだろうけど、それでもいい。
ノルマ達成のために俺がしてやれることはこれぐらいだもんな。

っつーかこの調子だと、マジでノルマ達成まで俺は放っておかれる可能性が高そうだ。
ババァはああ言ってたけど、結婚とかほんとは遠退いてんじゃねぇの?

こいつが営業成績をあげるまで、俺は全力で応援しなきゃなんねぇな。

俺の明日からの仕事は、メープルの営業補佐で決まりだ。


やっぱ専務はボイコットで。


















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恋する専務 〜恐れていた異動 後編〜


あいつが1週間のNY出張に行った。

昨日はうちで一緒に過ごして、1週間分充電するとかなんとかうるさいあいつとほとんど眠れず過ごしたせいで、今日はすこぶる眠い。

そんな日に限って部内に急な海外出張の人が出て、航空券の手配に追われる。
その合間に請求書の処理や予算の見直しをして、事務用品の補充に部長会の資料の作成…もう時計を見る暇もないぐらい忙しい中、デスクのIP電話が内線を知らせる。

「はい、品保の牧野です」
「私です」

は?
誰だ、ワタクシって。

「えーと、はい」
忙しいから、とりあえずわかったふり。
用件聞けば誰かわかるでしょ。

「今すぐ社長室へ来ていただけるかしら。秘書に話を通してあるから、そのままあがってきてちょうだい」

・・・。

あー、そっちのワタクシか…

あたしなんかしたっけ。


このクソ忙しいときに〜って威勢良く居室を飛び出したものの、重役用エレベーターに乗ったときにはもう心臓が高鳴っていた。

なんだろう、本当に何かしたかな。
仕事のこと?
いや、仕事のことであたしなんか呼ばないよね。
じゃあ道明寺のこと?
まさかいまさら別れろとか言わないよね。
いや、待てよ。
いい縁談の話がきてるから別れてほしいとか、有り得なくはないかも。
っていうか、そんなこと仕事中にわざわざ呼び出して言う?
そりゃそっちはお偉いさんで忙しく飛び回ってるかもしれないけど、こっちだって目の前の仕事片付けるのにいっぱいいっぱいだっつーの。
だいたい誰のせいで今日こんなに眠いと思ってんのよ。親の顔が見てみたいわ。

…ほんとになにかしたっけ。

社長室のフロアでエレベーターを降り、道明寺邸でたまに会う秘書の西田さんに、社長室へ案内された。

初めて入る社長室はうまく言えないけど高級な匂いがして、ドアは後ろで静かにゆっくり閉まった。

「牧野さん、時間がないので単刀直入に言います。あなたに営業部にいってもらいたいのだけどいいかしら?」
「は…営業…」

営業〜!?

ご冗談!!営業だけはいや!むりむりむり!!
じゃなくて…

「あの、それは…普通の異動ですよね?どうして私に直接聞いてくださるんですか?えーと、拒否権とかあるんでしょうか」
「ないわね」

やっぱり。

「じゃあどうして聞くのって顔してるわね。その通りよ。私としても不本意ですけど、司があなたを営業にまわすことを反対しています。それはご存知?」
「はぁーまぁ、なんとなくですけど」
「無理矢理異動をさせると面倒なことになりかねないので、あなたの意志を確認したかっただけです。構わないかしら?」
「…はい」

拒否権ないんだろーがと喉まで出かかったのをなんとかとどめる。

「では、次の通達に載せます。司のことはあなたのほうでうまくやってちょうだい」
「えっ!うまく?無理です無理です、あんな猛獣…あっ」

親の前でなんてことを…

「えっと、すみません…あのでも、会社の普通の異動ですから、仕方ないことですよね。道明寺もわかってますよね」
「あなたって本当に能天気な人ね。それじゃ営業は務まりませんよ。もう少し頭のいいお友達にでも聞いて、とにかく波風立たないようにしてちょうだい。話は以上です」

うー、まじかい。

重い足取りで社長室を出る前に、気になっていたことを思い切って聞いてみた。

「あの、今まであたし異動が多い方だと思うんですけど、しかもいろんな部署に。それって、社長が…」

口出してる、と言おうとして、別の言葉を探していると、

「そうです。当然でしょう。あなたは司と結婚するために我が社にいるのよね?」
「えっ、結婚!?」
「違うのかしら」
「え、えーと…確かにその、結婚しても働かせていただけるという条件だったんですけど…」
「あなたには覚悟が足りないようね。結婚後も働きたいのなら、もっとよく知る必要があります。あなたにはそのために、向いていない営業にもいってもらいます。
それから、営業は本社ではなくメープルへの出向扱いにしてあります」
「メープル!?」
「ええ。…本社営業は男性でもかなりキツイですからね。話は以上です」

そう言いながら、社長はすでにデスクの上の書類に視線を落としていた。

「失礼いたしました…」

社長室を出ると、どっと疲れが出た。

うわぁ、情けないけど足震えてたかも。
ちゃんと話せてたかな。

そうなんだ、やっぱりあたしの異動は道明寺がらみというか、他の社員の異動とは違ったんだな。
前からそんな気はしてたけど、もしそうだったら、もっと腹が立つかと思ってた。

でも実際は…すっきりしたかも。

もちろん責任とかこれからの不安とかも色々あるけど、それがあいつとこれからも付き合っていくってことなんだ。
道明寺のお母さんが、本気であたしを将来ここに置いておくつもりでいてくれている。
それが素直に、嬉しかった。



✳︎✳︎✳︎

「なるほど。それでその『頭のいいお友達』に私が呼ばれたわけですね」
「あ、わかる?そうなの、どうしたらいいかわかんなくて」

社長室に呼ばれた週末、あたしは桜子を呼び出した。
うまくやってくれって言われたって、どうしたらいいか全然わかんないもん。

「道明寺さんはまだ帰ってきてないんですか?」
「うん。1週間の予定だったんだけど、延びて帰れないみたい。インドの僻地らしくて連絡も取れなくなっちゃった」
「飛ばされたんですね。その間に考えろってことですか」
「ちょっとぉ、それは仕事だから関係ないって。怖いこと言わないでよ」
「そうですか?やりかねないですけど…まぁ時間の猶予はあるので、先輩のために伝授してあげますよ」
「なになに、どうすればいいの?」
「簡単ですよ。先輩が道明寺さんに抱きついて、好きって言えばいいんです」
「だっ…そ、そんなんでうまくいくわけないじゃん。そそ、そんなこと…」
「大丈夫ですよ。とりあえず異動の話になったら、どんな会話の流れになったとしてもそれに持ち込んでください」

だだだ抱きつくとか、すすす好きとか、ほんと無理!

「先輩、顔真っ赤ですよ。そんなんで大丈夫ですかねぇ」
「ほ、本当にそれでうまくいくの?」
「他の男女じゃ無理ですけどね。先輩と道明寺さんなら、変に小細工するよりそれぐらいで十分です」
「…なんかちょっと嫌味入ってない?」

桜子はふふふと笑ったあと、真剣な顔であたしを見て言った。

「でも先輩、よかったですね。道明寺さんのお母様に認めてもらえて。先輩の今までの仕事ぶりとかも評価されたんじゃないですか?」
「…うん。ありがと」

そうだよね、認めてもらえたってことだよね。

向いてるとは思えない営業にまわすリスクも考えたうえで、あたしをわざわざ営業に行かせる。
きっと会社のためじゃない、あたしのためだ。

やるしかない!!

ガンバレ!牧野つくし!!!
















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恋する専務 〜恐れていた異動 前編〜


長い出張から帰ると、異動の通達が出ていた。


なんかおかしいと思ってた。

1週間のNYのはずが、トラブルで香港にまわり、さらにほとんど俺が関わってない新規事業の視察でインドまで行かされた。
インドではネットワークの不具合とかで、社内のDBがいくつか閲覧できなくなり、俺はその通達を見ることができなかった。

3週間ぶりに帰国した俺は、正直フラフラだったけど、あいつに会いたくてそのまま出社した。

3週間だぜ?
完全に牧野切れで、イケナイとわかっちゃいるけど品保の居室に行った。
当然あまりに驚いて全員動きが止まっていたが、なんとか席を立って走ってきた部長に、予算のことで聞きたいことがあるから、至急この部署の庶務と話がしたいと言ってみた。

すると。
意外な答えが返ってきた。

「申し訳ございません。庶務の牧野は本日ホテルメープルへ出張に行っておりまして…私でわかることがございましたらお答え致します」

ホテルメープルへシュッチョウ。

急いで執務室に戻りPCを立ち上げ、通達を探した。
汗ばんだ指ではうまくマウスを動かせず、目的のものを見る前にすでにわかっていた。

ずっと恐れていた異動、それは営業。

それがさらに、メープルの営業とは。

もう絶望的。


仕事をするために出社したわけじゃねぇから、秘書に見つかる前に本社を後にして牧野の家に向かう。
合鍵でアパートに入ると、いつもはキレイに片付いているあいつの部屋が少し散らかっていた。
ベッドの上のパジャマは畳まずに放り投げられたみてぇだし、朝食のあとか、食べかけのパンがテーブルに出しっ放しだ。

っつーか、あいつが朝パンを食べるなんて珍しい。
いつも白米と味噌汁となんやかんやをゆっくり食べてるからな。

もしかしたら俺が出張に行ってる間、忙しい生活だったのかもしれない。
通達から異動までやたらはえーし、引き継ぎとか大変なんだろうな。

あいつの匂いのするベッドに転がり、俺はふた月ほど前のことを思い出していた。

久々にあきら達と集まり、仕事の話になったとき。
入社してからもう3部署目ってすげぇな、仕事覚えんの大変だろって話から、総務が1番合ってたんじゃねぇのってみんなに言われたあいつは、こう言ってた。

「どうかなー。総務で誰かの役に立てるのは嬉しかったけど、いまの庶務の方が合ってるかも。もっと小さい枠の中で困ってる人の役に立てるし、雑用とかも全然嫌いじゃないし」
「ちまちました仕事好きだもんな」
って言った俺の肩を、
「ちまちまって言うな」って軽く殴って。
「でもとにかくさ、営業じゃなきゃどこでもいいわ。アレだけは無理。あたし心強くないし」
「先輩が強くなくて、誰が強いんですか?」
「まぁ営業はな、男でもキツイよな」
なんて話をして。

ああ、よかった。
こいつが営業に異動願いを出すことはなさそうだなって安心してたのに。


いつの間にか眠っちまって、起きたらすでに21時。
時差ボケってやべぇなと思っていると、玄関の方でデカイ声がした。

「あれー?あたし電気つけてったっけ?あれ?道明寺来てんの?ちょっとー来るなら連絡ぐらいしてよね、怖いじゃんよ」
「…よぉ」
「…おかえり」
「ただいまだろ」
「え?あ、そうか…ただいま。いや、あんた長く出張行ってたからさ」
「誰かさんのおかげでな」
「なによ、それ」

いつもの牧野にホッとした瞬間、ふわっと酒の匂いがして一気にイラついた。

「おまえ、飲んでんの?」
「あーうん。ちょっとだけど…酔ってないよ、平気」
「平気じゃねーよ。誰と飲んだんだよ」
「怖いなぁ、なんでそんな怒ってんの?今日メープルに行ったんだけど…」
「営業のやつらと飲んできたのか!?」
「…なによ、異動のこと聞いたんでしょ?そうだよ、来月からお世話になる人たちだからさ。誘われて行ってきた」

しれっと異動の話をしたあいつに、営業のやつらなんてほとんど男だろうに飲みにいってきたあいつに、抑えきれないぐらい腹が立つ。

「おまえ、今回の異動いつ聞いた?内示はなかったのかよ」
「内示っていうか…ないこともないけど、内示とはちょっと違うかな」
「なんだよ、それ」
「…あんたのお母さんに呼ばれた」
「ババァに!?なんで黙ってたんだよ!」
「だって、通達が出るまで黙ってろって言われたんだもん」
「おまえはババァの言いなりかよ!?俺の方が大事なんじゃねーのかよ!」
「ちょっと、大きい声出さないで。もう遅いんだから…。あのね、言いなりとは違うけど、あんたのお母さんだし、あたしが働く会社の社長だよ?大事かどうかで言えば大事だよ」

じゃあなんで、と言おうとしたとき、牧野が俺の胸に寄りかかるようにくっついてきた。
な、なんだ!?

「どっちが大事とかじゃないよ。あんたが大切。だから大丈夫だよ。す、すきだよ。あたしはどこにいっても変わらないから、大丈夫だよ」

背中に回された手がいつもより熱く、俺の胸に顔を埋めた牧野の耳が相当赤い。
酔ってるせいではなさそうで、怒る気持ちが一気に失せてしまった。
むしろ突然の告白と滅多にないハグに、どっちかっつーと有頂天。

なんで営業にいくんだ。
なんでメープルなんだ。
ババァはなんて言ったんだ。

聞きたいことは山ほどあるが、背中に回された手から強い決意みたいなもんが感じられて、いつものなにを言ってもダメそうな空気を読み取る。

これはここでどう足掻いても無理だな。

どこからどうやって攻めたらいいか…と迷っていると、腕の中の牧野の力がだんだん抜けてくるのがわかった。

危ない危ない、飲んできたっつーことは、早くしないとこいつは寝ちまう。

何度も言うけど、今日は3週間ぶり。
どうにもならないことで悩む前に、とりあえず…

首筋から攻めることにした。











✳︎✳︎✳︎

拍手コメントに御返事をさせていただきましたので、ご確認ください。


もぐ






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appearance 11



散々もめた結果、時間差ならという許可をもらって、なんとか一緒に入ったバスルーム。
何を入れたんだかお湯は白く濁ってなんにも見えねぇけど。

くもったバスルームの中に、牧野がいる。

それだけで、かなりヤバイ。

背中を向けて縮こまっている牧野の後ろからそっと浴槽に入り、あいつの肩に触れると、ピクッと動いてこっちまで緊張が伝わってきた。

あいつが怖がらないように後ろからそっと抱きしめ、とりあえずあんまり動かねぇように、変なとこ触らねぇように気をつける。
これっきりにされたらたまんねぇ。
次につなげることが最重要課題だからな。

後ろから見える牧野の頬のあたりが真っ赤で、ふと嫌なことを思い出した。

「おまえさ、俺のどこが好き?」
「えっ?なんでいまそんなこと聞くのよ」
「いや、聞いたことなかったなと思ってよ」
「だからそれをなんでいま聞くのよ!」

しばらく黙ったあと、ますます真っ赤になって身体を固くした牧野から、小さい声が聞こえてきた。

「あ、あんたは?」
「は?」
「その、あたしのどこがっていうか…」
「全部に決まってんだろ」

即答した俺にびっくりしてちょっと振り向いた牧野の顔が、思ったより近くていろいろヤバイ。

「えっと…でもあたし、ほら顔はこれだし胸もこれだし、女の子らしくないし…その…」
「うるせーな、ごちゃごちゃ言ってんな。顔も性格も、その丸い顔もかっわいくねー頑固な性格も、全部好きなんだよ。文句あっか」
「・・・」

でかい目がまたでかくなって、どんどん赤くなって、また前を向く。
この赤さはそろそろのぼせるかなと思って、まわした腕を離そうとしたとき。

「!」

牧野が俺にそっと寄りかかってきた。

「…あ、あたしはあんたの嫌いなとこいっぱいあるよ。わがまま坊ちゃんだし嫉妬深いし常識通じないし」
「…てめぇ」
「でも…好きなんだよね。嫌いなとこいっぱいあるのに結局好きって、自分でもよくわかんないけど」

こいつからのめったに聞けねぇ「好き」に、イライラが少しずつ溶けていく。

「散々な言われようだけどよ…類は?おまえ類の顔がもともとタイプだったんだよな?俺と類が入れ替わったときどう思った?類の外見のがいいとか思ったんじゃねーのかよ」
「お、思うわけないじゃん。類の顔がタイプっていうわけじゃないし」
「嘘だね。類だけにはいつも赤くなりやがって」
「ちがうちがう。あんたたちみんな顔がいいのはわかってるよ。だけど類だけは、なんていうのかな。顔が近いんだよ、覗き込んでくるから恥ずかしいの!」
「覗き込む?」
「うん。だからあんたの顔で接近されたときのが困るよ、恥ずかしくて…」

そこまで言って、牧野はハッとしたようにまた背中を俺から離した。

「あ、べつに変な意味はないから。その、あんたの顔がす、好きとかはないから、ほんと、その…」
「ふぅーん。覗き込むねぇ…」

おれは牧野の肩越しに顔を覗き込んで、思い切り接近して、
「こう?」
と言ってやると、牧野の顔がますます真っ赤になった。

「おもしれー!おまえゆでダコすぎんだろ!」
「う、うるさい!人のことからかうのやめてよね!」

そのまま俺の方に向き直りバシャバシャお湯をかけてくる牧野に、俺はまだ笑いが止まらない。

お湯をかける牧野の手を掴んで拘束し、覚えたばかりの距離であいつの顔を覗き込む。

「そろそろ出ようぜ。俺もう限界」
「え?あ…」

そのまま牧野を抱き上げ、濡れたままベッドルームに急ぐ。

なるほど、いいこと勉強したなぁ。
これだと牧野は一発でおとなしくなんのか。

そうか、そうだったのか。

いつも類に赤くなる牧野。
俺の顔した類にも赤くなった牧野。

類の顔が好きなわけでも、類の中身が好きなわけでもなかったのか。

この何日か触れられなかった分も、今夜は腕の中の牧野を離せそうにない。




Fin











✳︎✳︎✳︎

初めての続きのお話、お付き合いいただきましてありがとうございました!
思ったより長くなってしまいました〜。
(お話も、期間も)

皆さまの温かいコメントに励まされました。
本当にありがとうございました!

拍手コメントに御返事をさせていただきましたので、ご確認ください。

テーマ : 二次創作:小説 - ジャンル : 小説・文学